お能の質問箱

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正座が苦手 さん (東京都 女性)

地謡での正座を持ちこたえる秘訣はありますか?

正座は確かに大変です。座る時間が長くなると共に苦痛が増す比例関係をなくす事は出来ません。私どもも地謡で正座をしていて1時間半が一つの目安で、それを越すと徐々に膝や足に負担が増してきます。 ただ、座り方でその負担を軽減する事は可能だと思います。 実は美しい姿で正座する事が足への苦痛を減らす近道なのです。 多くの方は、正座した瞬間にどっかりとお尻を両足の上に乗せてしまいます。これは上半身の体重を両足にかけてしまう座り方です。先ずこの時点で少し腰から上、背筋を真っ直ぐ伸ばします。伸ばす事で重心が上に向き腰の背筋の辺りに圧を感じる筈です。この時この圧のかかった腰の辺りを後ろ斜め上に引き上げるようにします。この時点で、上半身は少し前掛かりになるはずです。この姿勢が、綺麗な姿の正座になります。この形ですわれば体重の足への負担が少し無くなります。 実は、これはお仕舞いの立姿の上体の姿勢と同じなのです。お仕舞いのお稽古をなさっている方ならば、腰を引き上げ背筋を伸ばし、胸を張った構のまま少し前傾に構え、そのまま膝を畳んで正座をすれば正しい姿勢となります。但し同じ姿勢を長く保つとどこかに負担が掛かります。この座り方も長時間ですと背筋が辛くなります。日常の正座でしたら、しばらく座ったら一度お尻を両足に落とし、腰あたりを楽にして、また時間を見て腰を引き上げるという姿勢の変化で正座の維持、耐久時間も延びて来るかと思います。両足の組み方を浅くしたり深くしたりするのも一つの方法です。 我々も地謡で扇を取る時、置く時が一種のチャンス、オアシスでも有ります。ただ不思議なもので謡っている時、シテの舞台に引き込まれている時などは足の事が頭から離れています。正座しながらも他に集中する事があればその時は苦痛になら無いかも知れません。ただ危険なのは正座から立ち上がる時に急に立とうとすると怪我をしやすいという点です。正座は膝を折り畳んでいますから、血行が悪くなり痺れて来ます。長く座ると足首のあたりの血行も悪くなり立ち上がろうとしても足首が通常の様に返らず伸びたままの状態になってしまいます。この時足の感覚が麻酔を打たれた様な感覚で痛みも痒みもわからないような状態ですので立ち上がっても足首が伸びたままで立ったつもりになり、転んで捻挫などをする事があります。お立ちになる時は、充分足首の感覚を確認されてから立ち上がるようになさってください。 最後になりますが、体重との相関関係は揺るぎないものです。私どもも舞台で正座した瞬間に、「うーむ、増えたな」と反省する事もしばしばです。 日頃から、負荷がかから無いように体重設定も維持する様に心がけてはおります。逆らえ無いものはありますが…

友枝雄人

2016年5月10日更新