2017年9月17日

五蘊会 秋曲二題(其の二)

猩々乱という演目は、私共能楽師にとって一種の登竜門的な存在です。
シテ方の舞う曲には、その舞台の経験の中で、獅子や道成寺の乱拍子など成長の目安とする舞が幾つかございます。
この乱も、その目安とする為の最初の舞となっております。
(喜多流では、目安とする最初の演目。いわゆる能楽師としての義務教育卒業試験と言ったところでしょうか?)
私も20代前半でこの曲に挑戦させて頂きましたが、かなり苦労をした記憶があります。まずそれまでの舞とは全く違う足腰の使い方と、同じ使い方ではありながら、倍以上の持久力を必要とする所に驚きと絶望を感じました。先輩方の稽古を見て難易度は分かっていたつもりですが、実際に自分で動いてみると何も分かっていなかった事だけはしっかり理解できました。
稽古方法や、型の流れなどで悩んでいる時に亡くなった祖父が乱れ足について少し話してくれた事方ありました。
それは「乱」とよく言うが、昔の人は「みたれ」が本当の意味だと言っていた、秋になり稲穂の実が垂れる様、それで「みたれ」と言っており、そこから「乱」に変化した、というのです。
前回触れましたが、乱れ足と言う足遣いは、足先で青海波という図柄を描きながら舞進みます。もちろん片足ずつで描くのですが、この時の足の付け根から足先までの形が、「みたれ」、いわゆる稲穂が黄金色に実り、その重さでその穂自体が垂れる様を表しているのだそうです。
残念ながら、初役の稽古で必死だったその頃の自分には、この優雅な説明が大きなヒントになる余裕はありませんでした。
それよりもっとびっくりする事をその後に祖父は話してくれましたが、それもまたこのつぎに。
今回はこの辺りで失礼します。(其の三に続く)

五蘊会 秋曲二題(其の三)

 

撮影:辻井清一郎

 

友枝雄人