開催終了 2024年8月31日(土) 13時開演(12時開場) セルリアンタワー能楽堂
2024年五蘊会
友枝雄人「朝長」
修羅物と言われる演目、いわゆる公達や武士の亡魂をシテとした曲目の中でも、三修羅と呼称されている曲があります。頼政、実盛、朝長の三曲です。いずれも演者に求めらる力量は重く難曲ですが、特に朝長は他の二曲と異なる大曲です。
頼政も実盛も武士としての役割を全うして、死を受け入れながらもこの世に思いを残す執心の強い人間像がシテとして描かれていますが、朝長は負傷兵となった我が身を味方の足手纏いとなる事を良とせず、弱冠16歳の若さで自ら命を断つ源氏の総大将義朝の次男の霊を後シテとしています。この悲劇を世阿弥の息子元雅は他の修羅曲とは全く違う作能にて描いております。
それは、朝長の前半のシテを彼の死に立ち会わざるを得なかった宿場の女主人としている点です。
凄惨な死を目の当たりにした女性は深く心を痛め、日々救いを求めるために朝長の菩提を弔います。それは朝長の死を弔うよりも、我が身の救いを求めるが如くです。前シテの朝長の死に遭遇した場面の語りが、この演目の全てを凝縮していると思います。
中世の人々は今より死が身近にありながらも、現代の我々より強く重く死と向き合っていた事を考えずにはいられません。
前シテの登場からの謡の詞章は美しくも哀しく、また朝長への慈愛を感じさせる素晴らしい言葉の紡ぎです。
今に生きる我々にとって、死を通して生きる事の難しさ、辛さ、それを克服する事のみがまた生きるための意義だと能ならではの美しい言葉の流れが、強く訴えかけてくる演目です。
我が身の生き様と照らし合わせ、心して勤めたいと思っております。
是非ご高覧のほど、よろしくお願いいたします。
友枝雄人